蟻のエンサイクロペディア

アリの飼育用品を自作する

「自作」はアリ飼育の醍醐味の一つ

アリという趣味において「アリの採集」、「アリの飼育観察」に並ぶ醍醐味の一つは「アリの飼育用品」。
この「飼育用品」の楽しみ方は飼育者の好みやポリシーなどによって十人十色です。
私の場合、この飼育用品を可能な限り"自作"することを基本スタンスとしています。
必要な材料を揃え、作ってみて、使ってみて、良かったこと、良くなかったことを検証して次の作品を作る...。アリの飼育用品を自作することでアリへの理解はゆっくりでも確実に深まっていきます。
以下に私が試行錯誤しながら製作した自作飼育用品を紹介します。

<自作飼育巣>
平置き石膏巣」、「3Wayメッシュ石膏巣」、「擬似ドングリ石膏巣」、「蓋スライド型両面採光式土中種観察巣(スケルトン巣)」、「改良型ロフト付き丸型石膏巣」、「回転式縦重ね型シャーレ石膏巣」、「縦置き型自作石膏巣」、「枯竹型自作石膏巣

私の試行錯誤の詰まったアリ飼育用品に関する動画リスト

平置き石膏巣


【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏

【特徴】
平置き石膏巣は90mm×60mm×20mmのポリカーボネートケースなどに石膏を敷いただけという最もシンプルな構造の飼育巣です。
チューブ接続口の数、給水用の小さな穴を開ける、石膏に色をつけるなど様々な工夫が可能ですが、基本的にはシンプルで製作が簡単な飼育巣です。

【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
多くのアリの初期的な飼育巣としてこれまで数え切れない程使用してきました。複数組み合わせれば規模の大きなコロニーにも使用可能です。
基本的には加湿飼育用の飼育巣の為、土中営巣種の方がより相性が良いと思います。
平置き石膏巣
平置き石膏巣で飼育中のムネアカオオアリ
平置き石膏巣で飼育中のアメイロケアリ
平置き石膏巣で飼育中のチクシトゲアリ

《自作巣》「3Wayメッシュ石膏巣」


【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏、金網メッシュ

【特徴】
3wayメッシュ石膏巣は90mm×60mm×20mmのポリカーボネートケースに石膏を敷いたオーソドックスな平置き石膏巣に金網のメッシュを組み合わせることで以下の3つの機能を持たせようと考案した飼育巣です。

◆給水口...メッシュ内の空間に給水を行うことでアリに直接水が掛からずに給水可能。

◆通気口...目地の細かいメッシュを通し、アリの脱走を防ぎつつ巣内の通気が可能。通気性があることで巣内の結露の軽減も期待できる。

◆乾燥足場...万が一巣内に給水しすぎてしまった場合にも一段高いメッシュ部に移動すればアリが難を逃れることができる。

【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
クロヤマアリクロナガアリアシナガアリトビイロケアリアメイロケアリアギトアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っています。
その他、土中営巣種は大型種から小型種まで全般的に使用できる飼育巣だと思っています。
3wayメッシュ石膏巣
3wayメッシュ石膏巣で飼育中のアメイロケアリ
3wayメッシュ石膏巣で飼育中のアシナガアリ
3wayメッシュ石膏巣で飼育中のトビイロケアリ

《自作巣》「擬似ドングリ石膏巣」


【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏

【特徴】
擬似ドングリ石膏巣は直径約35mmの小型ラウンドケース内に石膏を流し込み、薄く小さな巣部屋を彫り込むことで朽ちたドングリ内のような狭い空間を再現しようと考案した石膏巣です。

【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
ヒメムネボソアリハヤシムネボソアリアメイロアリリュウキュウアメイロアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っています。
その他、朽ちたドングリ内から見つかるウロコアリの仲間や、土中営巣性の小型種に使用できる飼育巣だと思っています。
擬似ドングリ石膏巣
擬似ドングリ石膏巣で飼育中のヒメムネボソアリ
擬似ドングリ石膏巣で飼育中のヒメムネボソアリとハヤシムネボソアリ
擬似ドングリ石膏巣で飼育中のアメイロアリ新女王

《自作巣》「蓋スライド型両面採光式土中種観察巣(スケルトン巣)」



<TYPE B>

【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏、金網メッシュ

【特徴】
蓋スライド型両面採光式土中種観察巣(スケルトン巣)は200mm×100mm×50mmのアクリルケースの壁面に石膏を敷設し、中央部に金網のメッシュで作った仕切りを設置した石膏巣です。
この飼育巣で実現したかった機能は以下の二つです。

◆壁面を綺麗に保つ...スライド式で観察面のガラス板を交換できるようにすることで、アリが壁面を汚しても綺麗な観察面を保つことができる

◆巣全体に光を取り込む...飼育巣の前後両面から光を取り込めるようにし、さらに巣内の仕切りを光を透過するメッシュにすることで巣内に光が届かない暗い場所を無くし、観察のしやすさを保つ。


【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
クロオオアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っており、相性はとても良さそうです。
TYPE Bではクロヤマアリクロナガアリアカヤマアリアシナガアリで実際に使用しましたが、あまり調子は上がりませんでした。
構造的にアリに対して巣部屋の大きさが広い飼育巣となる為、小型種や中型種ではあまりマッチしないのかもしれません。反面、クロオオアリではとても好調なことから大型土中種に合うのかもしれません。
スケルトン巣で飼育中のクロオオアリ
スケルトン巣 TYPE B
スケルトン巣は観察面のガラス板を交換可能
スケルトン巣で接近撮影したクロオオアリ

《自作巣》「改良型ロフト付き丸型石膏巣」


【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏

【特徴】
ロフト付き石膏巣はメインとなるアクリルケースの内部にもう一つ小さな容器を入れ、それぞれに石膏を流し込んだ石膏巣です。
内部のケースにより内側と外側の石膏は隔てられており、一方に給水を行ってももう一方には給水されないという状態を作り出すことができます。
これにより実現したかったのは「アリが加湿状態か乾燥状態を自ら選べるようにすること」です。
効果の程はさほど大きな違いは生み出さなかったのですが、自作飼育巣の試行錯誤の一作品です。

↓同様の発想で製作した「"先代"ロフト付き飼育巣」


【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
キイロケアリムネアカオオアリヨツボシオオアリアメイロケアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っています。
基本的には石膏に給水をして加湿飼育を行う飼育巣の為、土中営巣種に合う飼育巣だと思っています。
樹上営巣種であるヨツボシオオアリでも使用してみましたが、コロニーは好調に成長していきました。
特にヨツボシオオアリでは乾燥傾向を好む種である為、中央の給水無しの部分にいることが多かったです。ただし、時間の経過とともに石膏を齧って穴を掘り始めてしまった為、引越しを余儀なくされました。
改良型ロフト付き丸型石膏巣
改良型ロフト付き丸型石膏巣で飼育中のキイロケアリ
同様の発想で製作した"ロフト付き飼育巣"とムネアカオオアリ
同様の発想で製作した"ロフト付き飼育巣"とヨツボシオオアリ

《自作巣》「回転式縦重ね型シャーレ石膏巣」



【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏

【特徴】
回転式縦重ね型シャーレ石膏巣は飼育巣の土台としてシャーレを使用した石膏巣です。
縦に差し込んだアクリルパイプが回転軸となるよう複数の飼育巣を重ね、通常時は揃えてコンパクトに、観察時は展開してどの部屋も観察しやすくなるよう考案しました。
回転軸付近が常に陰となり、展開しても観察できない箇所が出来てしまった為100%狙い通りの構造とはなりませんでしたが、「コンパクトさ」と「観察のしやすさ」の両立というテーマはその後の飼育巣作りの大きなテーマとして引き継がれています。

【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
アカヤマアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っています。
最上段以外は普段は陰になる為、アリ達も落ち着きやすく良い飼育巣です。
土中営巣種であれば多くの種と相性は良いのではないかと思っています。
また、回転軸を中心に重ねたり展開したりできる構造自体は、飼育巣床面の素材を石膏ではなく木材などに置き換えれば乾燥飼育種にも応用可能です。
回転式縦重ね型シャーレ石膏巣
回転式縦重ね型シャーレ石膏巣で飼育中のアカヤマアリ
回転式縦重ね型シャーレ石膏巣で飼育中のアカヤマアリ
回転式縦重ね型シャーレ石膏巣で飼育中のアカヤマアリ

《自作巣》「縦置き型自作石膏巣」



【飼育巣タイプ】
加湿飼育用アリ飼育巣

【主な素材】
石膏

【特徴】
この縦置き型自作石膏巣は約125mm×110mm×31mmのポリカーボネートケースをベースに石膏を流し込み巣部屋を彫り込んだ縦置き型飼育巣です。
縦置き型飼育巣の特徴は実際のアリの巣を彷彿とさせる自由なレイアウトを彫り込むことができる点です。反面、ベースとなるケースの表面積に対しアリが居住しない無駄なスペースが多く生まれやすい為、なるべく効率的に巣部屋を掘り込めるよう試みました。また、同様の発想から前後両面に巣部屋を彫り込む構造とし、より多くのアリを収容できるようにしました。

【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
ケブカアメイロアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っています。
土中種全般に有効な飼育巣であると思っています。
縦置き型自作石膏巣
縦置き型自作石膏巣
縦置き型自作石膏巣で飼育中のケブカアメイロアリ

《自作巣》「枯竹型自作石膏巣」



【飼育巣タイプ】
加湿飼育型アリ飼育巣

【主な素材】
石膏

【特徴】
枯竹型自作石膏巣はアクリルパイプの底面を石膏床面とし、内部に石膏で作った"節"のような構造を組み込むことで枯竹内の空間を再現しようと考案した飼育巣です。
石膏床面には外部を水に浸すことで給水が可能です。
一般的な平置き石膏巣では飼育がうまくいかないとされていたウメマツオオアリなどの枯竹営巣種をより良く飼育したいと2015年に考案、製作しました。

【この飼育巣に適していると思われるアリ種】
ウメマツオオアリで実際にこの飼育巣を使って飼育を行っています。
現在では乾燥飼育が主流とされるウメマツオオアリですが、石膏床面での加水飼育となるこの飼育巣で順調に成長してくれました。
枯竹型飼育巣は今ではいくつもの商品が開発されていますが、私が製作した当時、他ではやっていなかった飼育巣であったと自負しています(多分...)。
枯竹型自作石膏巣
枯竹型自作石膏巣で飼育中のウメマツオオアリ
枯竹型自作石膏巣
枯竹型自作石膏巣で飼育中のウメマツオオアリ

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